なぜオイストラフの演奏は派手な動きが少ないのか?
オイストラフの演奏は、直立不動で弓をラクにササーっと動かしていて、綺麗だと思ったことはありませんか?
動きが少ないからといって表現が乏しくなるのではなく、オイストラフはその逆であり、出てくる音の音楽は非常に情熱的であります。
音楽性については一概に右手の奏法だけが要因ではないですが、でも確実に右手の素晴らしい奏法があるからオイストラフの音楽は素晴らしいのです。
私が定期的に見ている動画をご紹介します。
オイストラフの若い頃の貴重な映像資料です。
なぜ何度も見たくなるかというと、オイストラフの右手の技術の高さが凝縮されているようで、見ていると原点に引き戻してくれるように感じるからです。
一見するとシンプルな、体の過剰な動きがありません。
それは、体全体を使わなくても右手のみのコントーロールで音楽を表現できるということであり、高度な技術を持っているということです。
オイストラフの奏法の何が良いのかを考えると、大きく分けて次の2点だと思っています。
①右手人差し指を使った『コネクション』
②右手手首を使った『コントロール』
①についてはこのブログでお伝えしているコネクションのことです。
コネクションとは、右手親指を支点とした時、右手人差し指が力点、弓の毛と弦が接地しているところを作用点とする“てこの原理“を考えるとイメージしやすいと思います。
てこの原理には3種類あり、そのうちの「第3種てこ」と呼ばれるものです。
主なものに、お箸、ピンセットなどがあります。
支点が一番端に来るパターンであり、人差し指のコネクション(圧力)の強弱によって力点の強さが変わり、弓と弦が接地する圧力が変わります。
右手人差し指は、力点ですが、肩や腕を使って力ずくで人差し指から力を入れるわけではありません。
前方に突き出した“右手を左にちょっと傾ける“だけの圧力のかけ方が基本となります。
コネクションの圧力の話をしていますが、しっかりした音、音を減衰させない時に使用するだけではないのです。
上の動画の中で手を浮かせてふわっふわっと弾いているように見えるところは、親指が支点であることには変わりはないのですが、腕全体で手を持ち上げることにより、弓が弦に触れる量を変化させています。
そんなの当たり前だろうと思われると思いますが、人差し指のコネクションの感覚がある人が弾く腕を上げてのふわふわな音と、そうでない人のふわふわな音は天と地ほど違いがあります。
こういうところでも右手人差し指のコネクションの感覚は常にあります。
②の手首については、上の動画の冒頭から何度も出てくるスタッカートの部分で、右手首の円を描くような動きが頻繁に見られ、その特徴がよくわかると思います。
まるで、肩から肘まではどこも動かさず、手首のみでスタッカートをしているように見えるのが特徴です。
ここまで手首のみで弾いているヴァイオリニストはそうそういないのではないでしょうか。
腕も使ってのスタッカートをされる方が多く見られます。
オイストラフはここまでできるのです。
「手首を柔らかく」と指導されることはよく聞く話ですが、、ただ単に手首を柔らかく動かせばいい、という訳ではなく、「手首を使って出したい音をコントロールできるか」が重要です。
この時も弓の毛と弦の接地する部分の感覚は持ち続けており、つまり右手人差し指のコネクションの感覚が大事になってきます。
そのためにも手首を使う練習をするのですが、この練習が実は大変難しいのです。
私は、グレゴリー・フェイギン先生のレッスン第一回目に手首の練習の仕方を習いました。
当時はどういう意味があってこれをやっているのかは、今ほど理解していませんでしたが、徐々に理解していきました。今でも大変重要な練習だと思っています。
生徒さんにもやるよう指導するときはありますが、難しくて(私が?!)挫折してしまうことが多いです。(詳しい練習方法を後日お伝えできるといいですが、、、これも難しそう)
まとめると、オイストラフの演奏が派手な動きが少ない理由は、右手のコネクションと、手首を使った音のコントロールが尋常でないほど素晴らしいから、ということです。
上の動画からは、ふわふわな音とスタッカートで一瞬圧力をかけたいところの音の変化が巧みであるということが一目瞭然です。
オイストラフの演奏の表現の幅がとても広いということ(豊かな音楽性)へ繋がってきます。
決して、しかめっ面をして、体を動かせば表現がプラスされるわけではないのです。